各地域の町内会で、今一番頭を悩ませていることのひとつに「デジタル化」があります。若い世代はインターネットを自由自在に使いこなし、「もう回覧板の時代じゃないでしょう」という声も出ています。しかし、年配の人たちの中には、スマホもパソコンも持っていない方も少なくありません。しかも、町内会活動は年配の方たちによって支えられています。どうコンセンサスを得て、どんな方法を採用するか、なかなかの難題です。ということで、今回は厚別区内でデジタル化を進めている町内会にその取り組みについて伺いました。
役員間のデジタル化
一口にデジタル化と言っても、役員間の情報のやり取りと、全会員とのやり取りの二つの段階があります。まずは役員間のデジタル化ですが、これには、ソーシャルメディアの「LINE(ライン)」を使っているという町内会が増えています。
その中のひとつ、「厚別中央振興会」を訪ねました。厚別中央振興会は約5200世帯が加入する札幌市内でも最大の町内会です。2021年度、インターネットで各世帯に情報を届ける「電子回覧板」について検討する札幌市の事業に参加しました(各区から1町内会ずつ参加)。まず取り組んだのが役員間の連絡に「LINE」を取り入れることでした。去年の夏には、会長・部長会のメンバー16人全員で、続いて役員会(55人)で、さらに総務部や会計部などの7つの部ごとに「LINE」のグループを作り、使い始めました。打ち合わせの日程も「LINE」の日程調整機能を使って決めています。この間に「LINE」の使い方の講習会を数回行ったということです。ただ、当然のことながら、役員会のメンバーのうち4分の1はスマートフォンやパソコンを使っていないということで、そういう方とはこれまでと同じように電話や口頭で連絡を取っているということです。
全会員間のデジタル化
デジタル化の第2段階は、町内会全体のデジタル化です。これにはさまざまなやり方があります。まずもみじ台の「みずほ自治会」の取り組みをご紹介します。
ホームページの開設 ~みずほ自治会(もみじ台)~
野幌森林公園の瑞穂池をデザインしたロゴ、美しい写真のスタイリッシュな画面。みずほ自治会(約620世帯)のホームページです。
みずほ自治会では、2021年6月にIT化推進プロジェクトを立ち上げました。まず役員間でLINEグループを導入した後、9月には、ホームページを開設しました。画面を拝見して、これはプロの仕事に違いない、結構お金がかかったのではと思いきや、IT関係の会社に勤める自治会の総務部長さんが無料のホームページ作成ツールWix(ウィックス)を使って作ったとのことでした。ホームページを作った背景には、回覧板は読まずにすぐ次の家に回されていることも多く、それならホームページにすべての情報を掲載して、好きな時に見てもらった方がいいのではという思いがありました。
ホームページは、町内会の紹介など外部の人間でも見られるページと、登録した町内会員しか見られないページに分かれています。会員専用のページには、従来回覧板で回していたような情報がすべて掲載されています。総会や役員会で決まった議案も載っていて、文書の保存にも役立っています。検診やイベントへの参加申し込みもホームページからできます。システムの管理は総務部長が担っていますが、お知らせは広報部長が、会員から寄せられる催しの写真などはIT推進委員(3人)がアップしています。ただ、今後、こうした体制をどう維持・継承していくかは大きな課題だといいます。
もう一つの課題が、回覧板の扱いです。みずほ自治会では、去年ホームページを開設した後も回覧板を回していましたが、役員会で協議した結果、ことし7月に廃止しました。より多くの会員にホームページを見てもらうとともに、回覧板を回す班長の負担を減らしたいという思いからだったといいます。ただ、これまでにホームページを閲覧するために登録した会員は全体の2割だということです。自治会では、役員会の報告や主要な予定などは毎月作成する町内会報に掲載し、今も班長が全戸に配布しています。特に重要と判断した情報も紙で全戸に配布しています。しかし、年配の会員などからは回覧板の復活を求める強い要望も出ていることから、今後会員にアンケートを行い、回覧板をどうするか改めて検討することにしているということです。
みずほ自治会の他にも厚別区内では、青葉地区の白樺会、厚別西厚信会、厚別中央の新さっぽろ町内会などがホームページを作っています。また、Facebook(フェイスブック)で町内会のページを作り、ホームページのように利用している町内会もあります。
e-mail(イーメール)による電子回覧板を検討中 ~厚別中央振興会~
厚別中央振興会は先に触れたように、昨年度札幌市の事業に参加しました。コンサルタント会社「グローカル・デザイン」のスタッフからアドバイスを受けながら、6回にわたってデジタル化について検討を行いました。その結果、回覧板を送る機能に特化した有料システム「eメッセージ」(15000円/月)を使って、各世帯にEメールで一斉送信する方法が最もいいのではという方向でコンセンサスが得られました。町内会の規模が大きいだけに、なるべくシンプルで、手間がかからない方がいいというのがポイントになりました。それでも、町内会の担当者が運用するとなれば負担が大きくなるため、送信の作業を外部の業者に委託できないか検討しました。町内会の担当者が回覧板のペーパーを札幌市内の委託業者に郵送し、それをスキャンして全世帯に送ってもらうという方法です。業者に委託すれば、システムにトラブルが発生した時も業者に対応してもらえ、大きなメリットがあると考えました。しかし、今年度になって市内の業者に見積もりを出してもらったところ、年間50万円余りかかるという結果が示されました。このため、システムの導入は一旦見合わせました。厚別中央振興会では、コストを抑えられるいい手立てがないか、さらに検討していくことにしています。
見てきたように、すでにデジタル化に取り組んでいる町内会でも、試行錯誤が続いています。札幌市は町内会のデジタル化を進めようと、今年度「町内会デジタル活用促進補助金」という事業を行いました。町内会が、パソコンなどを買ったり、ホームページを作ったり、専門の講師を招いて勉強会を開いたりする場合に、10万円を上限に補助するというものです。100を超える町内会から申し込みがあったということで、町内会側の関心の高さがうかがえます。今後デジタル化に取り組む町内会はさらに増え、同じような多くの問題に直面するかと思います。でも、そんな時は「おたくの町内会はどんなふうにやってるの?」「あの町内会のやり方は参考になると思うよ」といった具合に、気軽に情報を交換し、お互いに教え合いながら進めて行ければいいなあと思いました。