カルチャー チャレンジ トピック

アクティブリンクはなぜ円い?

第1回 あつ!ベンチャー フォーラム (2024.5.15 BiViパークにて開催)

ゲストスピーカー  秋山 広 さん

【プロフィール】1962年、北海道の生まれ。おととし総合建設コンサルタント㈱ドーコンを退職。新さっぽろ駅周辺の再開発では構想段階から携わり、各施設設計者が意見交換する「設計デザイン会議」の取りまとめ役を務める。今回の再開発事業を最も知る一人。現在、新さっぽろエリアマネジメントのサポーター。

今回の新さっぽろ駅周辺地区G・I街区再整備事業は、老朽化した市営住宅団地跡地の再活用事業として札幌市がプロポーザル方式で公募し、大和ハウスを代表とするコンソーシアムの提案が選ばれました。G街区は文教エリアとして札幌学院大学と札幌看護医療専門学校を誘致し、I街区は商業・医療・居住エリアとして、BiViやホテル、病院、タワーマンションを建て、再び活気あふれる「新しい」新さっぽろを目指しています。

このうちI街区の再開発では7つの建物を、道路を跨いで楕円形の空中歩廊「アクティブリンク」でつないでいますが、実はこれ、プロポーザル提案初期の案は四角い形の空中歩廊だったんです。私が二十数年携わったJR琴似駅周辺地区の再開発でも、タワマンや大型商業施設などを約1㎞の空中歩廊で結んでいますが、道路上空はすべて直線で横断しています。国の決まりで、道路を渡る上空通路は道路と直角に交差しなければならない、つまり道路上を最短距離で結ばなければならないとされているんです。が、提案書の四角い歩廊をみて、大成建設の若い設計者の出口亮さんから「四角じゃおもしろくない。円くしてはどうか」と意見ありました。円いのはコストがかかりそうだしルール上の問題もあるが、提案書としては見栄えもいいから「楕円でいこう」となりました。

さて、めでたく提案がまとまり、設計を進めようと市の担当者に挨拶にいくと、「秋山さん、規則を知ってますよね」「こんなのできないでしょ」「琴似でたくさんやってきたのに」と言われ、俄然燃えたというか、火がついたというか。「いや、できるんです、円い歩廊でやるんです」と啖呵きってしまった…。そこから関係各所との長い協議が始まりました。最短距離で道路横断というルールがあるので、曲線の歩廊は基本NGなんですが、担当者と雑談的に話し始めると「円いほうがいいよね」「かっこいいよね」「角がなくて死角がなくて渡りやすいよね」と皆さん言ってくれて、「じゃあ、どうすれば実現できるべ」という前向きな会話になっていくうちに、解決策が見つかったんです。道路を渡る部分のカーブを当初の案より緩くして、「道路を渡る部分に、道路と直角に交わる線を引くことができる」ようにして、通路全体は曲がっていても直交して最短で渡れる部分もあるという理屈でなんとかクリアしたんです。

さあ、道路を円く渡る道筋ができました。次はこのとてもきれいな空中歩廊、だ円形のアクティブリンクを具体的にどんな構造で実現するかということになります。そこで登場するのが「ネイ&パートナーズジャパン」代表の渡邉竜一さんです。渡邉さんは全国でユニークな橋を設計する人で、アクティブリンクも鉄とガラスだけでつくることを考えてくれました。断面的にはコの字型になっていて、通路の外周側にしか柱がありません。わずか12本の柱で支えています。内周側は柱も壁もなく、全面ガラス張りになっています。外側にしか柱がないので内側に倒れ込む力がかかりますが、楕円であることによって、アーチの要石(かなめいし)のようにバランスよく力を逃がすことができるんです。さらに、構造材である鉄骨・鉄板を超耐候性の塗装とすることで、仕上げの天井や壁を不要としました。そうすることによって、地震の時などに道路に仕上げ部材が剥がれ落ちることがなくなりますし、建設費も抑えられ、メンテナンスもしやすくなります。

 いよいよ、建設段階です。仕上げや防水のない鉄の板だけの構造は、まさしく「造船」と同じでした。通路の鉄板は厚さが2㎝もあるんですが、これは「函館どつく」で切ってもらいました。2㎝もある鉄板を寸法どおりに1万ピース切りだすのは大変難しい加工です。その鉄板の溶接は、室蘭の「楢﨑製作所」でやってもらいました。アクティブリンクの構造は鉄だけなので、みんな溶接してつないでいくわけです。アクティブリンクを作るために溶接した距離は全部で50㎞。札幌から余市とか岩見沢とかまで溶接したことになります。その距離の溶接をすべて完璧にこなして「船」のように水漏れしないアクティブリンクになったんです。

もう一つ、アクティブリンクを建設するうえで難しかったのは、アクティブリンクには水平面がなく、全体が1.45%傾いているということです。これはアクティブリンクの下の道路が極めて緩い坂になっていて、傾いているからです。通常、建物には垂直水平があって、それを基準に組み立てていきますが、アクティブリンクにはそれがないので、部材の位置を三次元の座標軸で監理していきました。これはとても神経を使う面倒なことなんです。それに、部位ごとにリーズナブルな構造材寸法にしているために、一つとして同じ部材がないんです。アクティブリンクには1番から158番までのリブと呼ばれる鋼材が縦に付けられていますが、同じように見えて、みな寸法が違うんです。水平垂直でない異なる寸法の部材を、三次元の座標軸で監理して、ミリ単位の正確な施工していくというのは非常に難しい作業です。それを阿部鋼材や大成建設の方たちが施行しました。楕円形の最後のピースが現場でちゃんとはまった時には嬉しかったですね。

天井には1番~158番までのリブの番号が表示されている。

完成した後、アクティブリンクの活用術を考えるワークショップやアクティブリンク内の手すりをみんなで掃除するイベントなども行っています。みんなで、アクティブリンクを活用し、地域がつながっていけばいいと願っています。これまでの設計者人生で一番難しい設計であり工事だったアクティブリンクですが、円い形の「円」は、その実現に関わった人たちの「縁」でできたし、これからも地域の人たちが「縁」を結ぶことにつながればと思っています。

ゲストスピーカー  澤田 樹奈 さん

【プロフィール】神奈川県の出身。2020年、大和ハウス工業(今回の新さっぽろ駅周辺地区の再開発を主導したディベロッパー)入社。去年4月、札幌支店に。再開発エリアの連携や活性化を進めるエリアマネジメントを担当。

私は新さっぽろ駅周辺の再開発された地域のエリアマネジメントに取り組んでいます。みなさんエリアマネジメントという言葉を聞いたことがおありでしょうか。国土交通省では「地域における良好な環境や地域の価値を維持・向上させるための、住民・事業主・地権者等による主体的な取組み」、内閣府では「特定のエリアを単位に、民間が主体となって、まちづくりや地域経営を積極的に行おうという取組み」としています。一言で言えば、街を作るだけではなく、育てることと言えると思います。地域の関係者・団体が一体となって、地域の価値を高め、活性化していこうというわけです。

健康フェス

新さっぽろ駅周辺地区の再開発でも、このエリアマネジメントが進められています。エリアマネジメントを進めるために、一般社団法人の「新さっぽろエリアマネジメント」を立ち上げました。代表事業者となった大和ハウス工業をはじめ、進出した学校、病院、企業が参加しています。「みんなでまるごと、健康をつくるまち」というのをスローガンに、さまざまな取り組みを始めています。ことし3月にはサンピアザ光の広場で「新さっぽろ健康フェス」を開きました。新さっぽろエリアにある学校や企業などが参加しました。体も心も健康になってもらおうと、体脂肪や運動機能などの健康チェックや、子どもたちのお仕事体験、それにお笑いパフォーマンスなどを行いました。本当にたくさんのみなさんに来ていただき、またラジオやテレビ等のメディアにも取り上げていただき盛り上がりました。

動画コンテスト・やってみたい!展

去年12月、再開発の完成を祝って開かれた「まちびらき」では、新さっぽろを歩きながら地域の歴史や魅力を学ぶウォーキングのイベントを行ったほか、札幌学院大学の学生が中心となって、厚別のイチ推しスポットの動画投稿を呼びかけるイベントも行いました。170本もの動画が寄せられ、BiViパークの大型ビジョンで上映してコンテストも開催しました。去年秋には、地域の人たちがやってみたいと思っていることを集めて、その方の写真とともに紹介する「新さっぽろやってみたい!展」をアクティブリンクで開催しました。アクティブリンクの窓枠のところに、絵など展示できないかという発想を元に実現することができました。みなさん本当にいろんなアイディアをお持ちで、このまちに住む人・働く人・訪れる人々にやりたいことがいっぱいあるんだということを可視化してご紹介できたのではと思います。このほかにもみなさん、地域を盛り上げていくためのさまざまなアイディアをお持ちだと思います。そういうアイディアを、思いをどんどんお寄せいただいて、いっしょに実現していけたらと思っています。

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