チャレンジ トピック パーソン

冬の暮らし 支える

まだ暗い午前4時半、厚別区上野幌の高校2年生、吉田慈恩(しおん)さんの一日が始まります。吉田さんは、札幌市で行われている「福祉除雪」の協力員(有償ボランティア)の1人です。地域の高齢者世帯の玄関先の除雪を担当しています。この日(1月26日)も防寒着に身を包み、雪かき用のスコップ1本を担いで、いざ出動です。新雪を踏み分け歩くこと10分、1軒目の家に着きました。発達した低気圧の通過にともない全道的に吹雪となり、重く湿った雪が15センチほど積もっていました。

吉田さんは早速作業に取りかかりました。道路から玄関に向かって雪を取り除いていきます。風除室のサッシに貼りついた雪は手で払い落とします。「サッシに傷がつかないように気をつけています」。ん~、丁寧な仕事ぶりです。

吉田さんが福祉除雪を始めたのは高校1年の時です。町内会の回覧板で協力員の募集を知りました。「学校に行く前の朝なら自分にもできる。小遣い稼ぎにもなるし、地域の人の役にも立つ」と思ったと言います。友だちを誘って応募し、2人で3軒の除雪を担当しました。今シーズンは友だちが辞めたため、1人で2軒を担当しています。

部活動は少林寺拳法という吉田さん、一定のリズムを刻むようにスコップを振るい、雪を通路の脇に積んでいきます。15分ほどで、階段も含め通路はすっかりきれいになりました。除雪を依頼している坂尻昌平(さかじり・まさひら  65歳)さんは「元気もいいし、きちっとやってくれます。朝にはきれいになっていて、本当にありがたい」を話していました。

受け持っている2軒の除雪を終えて帰宅した吉田さん、シメは自宅前の雪かきです。すべての作業を終えたのはまだ夜明け前の5時半ごろでした。吉田さんは疲れたようすもなく、私に一礼をすると家の中に入っていきました。この後、朝食を食べ、7時過ぎには高校に向かうとのこと。文字どおり「朝飯前」のボランティアです。「責任も感じますが、やりがいもあります。除雪を始めてから夜更かしをしなくなったし、ゲームする時間も少なくなりました」。高校生らしい気負いのない答えに、私まで清々しい気持ちになりました。

福祉除雪は、除雪がままならない高齢者や障がい者のために、地域住民から募集した協力員を派遣し、雪かきを行う事業で、札幌市と社会福祉協議会が共同で実施しています。協力員は、12月から3月までの間、10センチ以上の雪が降り、生活道路に除雪車が入るのを目安に、担当する住宅の玄関先の雪かきを行います。利用者は所得に応じて、ひと冬5000円から1万円(生活保護世帯は無料)を負担し、協力員には、市からの支出も含め、ひと冬1軒につき2万1000円が支払われます。厚別区でこの事業を利用している人はおよそ500人。高齢化にともなって、10年前の1.5倍近くに増えています。これに対して協力員は70歳以上の高齢者が中心に160人余りと、ここ数年横ばい状態です。社会福祉協議会では、各協力員に受け持つ軒数を増やしてもらっていますが、さらに増やしてもらうのはむずかしくなってきています。一部は民間事業者にも依頼していますが、報酬が有償ボランティアである協力員と同額であるため、こちらも頭打ちの状態です。

そんな中、1人で11軒もの除雪を引き受けている「福祉除雪の鉄人」がいます。もみじ台に住む佐藤喜英(よしひで)さん、81歳です。11軒というのは、もちろん区内の協力員で最多です。白いヘルメットに2種類のスコップが佐藤さんのトレードマークです。まとまった雪が積もった日の午前中に、もみじ台北界隈を歩けば、必ずこの出で立ちの佐藤さんに出会います。

この日も午前8時半から、1軒目の家の除雪に取りかかりました。スピーディーで手際のいいこと、さすがは鉄人です。作業のようすを見て、81歳という年齢を言い当てられる人はいないのではと思います。それほどハツラツとしているのです。

佐藤さんが協力員になったのは12年前、69歳の時です。2軒からのスタートでした。しばらくして、佐藤さんは自分の体調が以前よりよくなっていることに気づいたといいます。「人のためにと思って始めたけど、自分の体のためにもいいんだ!」。佐藤さんは受け持つ軒数を徐々に増やしていきました。2シーズン前には遂に11軒に達しました。昨シーズン、佐藤さんの出動は26回に上りました。協力員の出動の目安となる除雪車の出動は14回。佐藤さんはその2倍近くも出動しているのです。本格的な降雪が遅かった今シーズンも2月6日までに10回を数えています。

作業が終わりかけた頃、この家に住む吉村嘉雄(よしお 76歳)さんが窓を開けて「いつもありがとうございます」と声をかけました。佐藤さんも「滑りやすいから気をつけてください」と返します。「ザ・ご近所どうし」という光景でした。1軒目の除雪は10分ほどで終わりましたが、2時間後、11軒の除雪を終えた佐藤さんは汗びっしょりでした。「除雪はスポーツだと思って楽しんでいます。夏はジョギングや水泳をやっていますが、冬は除雪です」。こんな明るく、前向きな気持ちによって私たちの冬の暮らしは支えられているんだなあと思いました。

札幌市では、高齢化が進めば、福祉除雪の利用希望者はさらに増えると見ています。このため、町内会に呼びかけたり、新聞の折り込みチラシやフリーペーペーに募集広告を出したりして、協力員の確保に力を入れています。厚別区社会福祉協議会の押見幹生(おしみ・みきお)事務局長は「福祉除雪は冬の暮らしを支える住民どうしの助け合いです。みなさんも、いつか利用されるかもしれません。1軒でもいいので、できる範囲で協力していただければと思っています」と話しています。

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