チャレンジ トピック パーソン

「地域の親父」という楽しみ

サンタさんは赤い服を着て子どもたちにプレゼントを届けてくれますが、見事な藤棚で知られる信濃小学校界隈では、藤色のTシャツを着たお父さんたちが子どもたちに「ワクワク」を届けているという話を耳にしました。もしこの藤色のTシャツを見かけたら、それは楽しいことが起きているか、もうすぐ始まるかの証だというのです。1月末にこのTシャツのお父さんたちが現れるという情報をキャッチし、現場に向かうことにしました。

1月28日土曜日、朝9時。信濃小学校近くの厚別木馬公園。藤色のTシャツなどを着たお父さん4人が集まってきました。お父さんたちは、作業の手順を簡単に確認しただけで、すぐに深い雪に覆われた公園の除雪に取りかかりました。除雪機で通路を作り始めたのは永宮淑玄(ながみや・よしはる)さんです。以前勤めていた職場で除雪機を使ったことがあり、いわば「昔取った杵柄」。でもこの通路、ちょっと曲がりくねってはいませんか。「まっすぐ作るより、ちょっと曲がっていた方が、変化があって楽しいんだよね」。なるほど、遊び心っていうヤツですね。ベンチの周りを掘り始めたのは、宮川智嘉(みやかわ・のりよし)さんと中嶋正人(なかじま・まさと)さん。「雪の下に宝物でも埋まっているんですか」と聞きたくなるほどのスピードと馬力で掘り進めていきます。スコップを振るうほどに額には汗がにじんできます。かなりの重労働ですが、いかにも楽しそうな表情です。お二人曰く「楽しいことをやるには、まず自分たちが楽しまないと」。お父さんたちがやっているのは、翌日開催される「冬のプレーパーク」の準備作業です。冬も子どもたちに思いっきり遊んでもらおうという恒例のイベントですが、新型コロナのために、今回は3年ぶりの開催となります。4時間ほどで「こみち」ができ、休憩用のテントも用意されました。

このお父さんたちは「信濃小学校 親父の会」のメンバーです。信濃小学校のPTAやそのOBの集まりで、現在の会員は27人。会社員、公務員、レントゲン技師など職業も年齢もさまざまです。1985年の結成以来、お父さん同士の親睦を深め、地域で子どもたちを育てる活動してきました。目指しているのは地域でわが子以外に知ってる子どもをどれだけ増やせるかです。活動は運動会の設営や運営の手伝い、校庭の清掃、餅つき大会。入学式や卒業式の時に、記念写真を撮りたいという親子のために、シャッターを押してあげる「写真撮り隊」もすっかりおなじみになりました。「プレーパーク」は毎年夏・秋・冬の3回開催される人気イベントです。この他、町内会などのイベントにも助っ人として参加しています。やっていることはどれも大真面目ですが、会員に参加のノルマはありません。「できる人が、できる時に、できることを」というゆるーい雰囲気をとても大事にしています。打ち合わせと称する飲み会も活動の原動力になっています。新人会員・窓岩修人(まどいわ・のぶひと)さんは去年夏のプレーパークに小学校1年の娘さんを連れて行った時、その遊ばせ方に共感し、入会しました。「いろんな仕事をしている人たちと話ができて、貴重な経験になっています。この地域に住んでよかったです」と話しています。

さて、「プレーパーク」当日の日曜日。冬には珍しいほどの青空が広がりました。朝から準備に当たっていた「親父の会」のメンバー7人に加え、町内会の人たちおよそ20人も駆けつけ、午前10時に「プレーパーク」が始まりました。この日は前日に作った「こみち」沿いにスノーキャンドルを並べて、夕方に明かりを点すことにしています。用意したのは、そのスノーキャンドルを作るためのバケツやスコップ、雪玉を作る道具、それにさまざまな形の雪のブロックが作れる円筒形や長方形のプラスチック容器などで、特別な遊具は見当たりません。今回のリーダーを務めた西島紀行(にしじま・のりゆき)さんは「こういうふうに遊びなさいと遊びを押しつけることはしません。子どもの自主性を大事にして見守るだけです。「危ないからやめて」とはできるだけ言わないことにしています」と話してくれました。

子どもたちが集まってくると、西島さんが言ったとおりの光景が繰り広げられました。雪山でそり遊びをする子どもに、雪を掘り雪洞を作る子ども、雪玉を作って積み上げる子ども、みんな思い思いに遊んでいます。バーベキューコンロを使ったたき火の前では、男の子が立ち上る煙を浴びながら「火がこんなにこわいって初めて知った。目が痛い!」と目をパチパチさせていました。これもいい経験ですね。意外にも一番多くの子どもたちが集まってきたのは、スノーキャンドル作りのコーナーでした。スノーキャンドルは、プラスチックの大きな樽に雪を入れ、水をかけてシャーベット状にします。これを小さな植木鉢を入れたバケツにぎっしり詰め込みます。雪に入浴剤を混ぜれば、カラフルなスノーキャンドルになります。バケツをこみち沿いに持って行って、そっとひっくり返せばスノーキャンドルのできあがりです。子どもたちは、「親父の会」や町内会の人たちがはりきって作っているのを見て、おもしろそうだと思ったようです。手袋を濡らしながらも夢中になって作っていました。中には雪がうまく固まらず、割れたり、いびつな形になったりしたものもありました。でも、貫里真一郎(ぬきさと・しんいちろう)さん曰く「割れると失敗したと思うかもしれませんが、割れたものもロウソクを点すといい感じになるんです」。こういう眼差しが子どもたちにも注がれているように感じました。

日が陰ってきた午後4時半、みんなで作った500個近いスノーキャンドルにロウソクの明かりが点されました。会場はたちまち幻想的な雰囲気に包まれました。あちこちで写真を撮る親子の姿が見られました。中には自分が作ったスノーキャンドルを自慢げに指さす子どももいました。「何が一番楽しかった?」と子どもたちに聞いてみると、大きな声で「手伝い!」という答えが返ってきました。自分たちも役に立った、主体的にかかわったという達成感を感じているようでした。

温かいポタージュとフライドポテトが振る舞われました

会場を訪れたお母さんたちに「親父の会」の活動について聞いてみました。「子どもが学校で親父の会のイベントのチラシをもらって来るので、よく参加しています」「地域のイベントに行けば、いつも藤色のTシャツを着たお父さんたちがいる感じです」「こういうイベントをやってもらうと、地域の人と子どもたちのつながりができますよね。子どもたちを地域で見守ってくれているという感じがして、とてもありがたいです」。親父のみなさん、さすがですね。

イベントは惜しまれながら午後6時で終わりましたが、この日会場を訪れた親子はのべおよそ250人に上りました。小学生の女の子が「こんなに大きな声を出せるところ、他にないよね」と言いながら帰って行きました。奮闘したお父さんたちにとっては、勲章のような言葉だったのではないでしょうか。リーダーを務めた西島さんは「新型コロナでイベントができない時期が続き、子どもたちにも寂しい思いをさせたと思います。これからはまた楽しい遊びの場を提供して、地域を元気にしていきたいですね」と話していました。熱くて、ゆるくて、やさしい親父パワー、みんなが期待しています。

撮影:貫里真一郎さん

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