カルチャー ネイチャー

サンピアザ水族館で「性」を考える

サンピアザ水族館と言えば、海から離れた街ナカにある身近な水族館として親しまれていますが、ことし4月に40周年を迎えました。子供にせがまれて、はたまた夏休みの自由研究のために足を運んだというお母さん、お父さんも多いのではないでしょうか。ということで、今回の「あつ!ベンチャー」は、子供の目線で水中の生き物たちの不思議を発見しようと、サンピアザ水族館の探検に出かけました。

何かいいテーマはないだろうかと、ちょっと暗い館内に足を踏み入れたところ、いきなり出会ってしまいました。入口を入って最初の水槽を泳ぎ回っていたサクラダイです。

サクラダイ

鮮やかな朱色をしています。オスの体にサクラの花びらを思わせる白い斑紋があることから、その名が付いたといいます。「きれいだなあ」と眺めていたのですが、説明のプレートにはこう書かれていました。「メスからオスに性転換することが知られ、・・・」 なに、性転換?

歩を進めると、また出会ってしまいました。子供たちはその水槽の前で「あっ、ニモだ!」と歓声をあげていました。ディズニー映画でおなじみの「ニモ」ことカクレクマノミです。

カクレクマノミ

説明プレートには「カクレクマノミは性転換する魚としても知られ、一つの群れの中で体の一番大きな個体が雌となり二番目に大きな個体が雄になります。一番大きかった雌が死んでしまうと、今まで雄だった個体が雌となり三番目に大きかった個体が雄になります」 サクラダイはメスからオスに、カクレクマノミはオスからメスに変わるというのです。

魚の「性」は一体どうなっているんだろう。自由研究のテーマは、期せずしてすぐに見つかりました。数日後、早速図書館に行って調べてみると、魚の世界では性転換は珍しくないことがわかりました。サクラダイのように、メスからオスに性転換するのは、一夫多妻的な魚に多いのだそうです。小さいときは、多くのメスといっしょに産卵し、その中で大きく成長した個体だけがオスになって、多くのメスが産む卵に受精させるというのです。一方、カクレクマノミは一つのイソギンチャクに一組のメスとオスが棲んでいて、これに数匹の未熟な魚が居候しています。サクラダイとは違って一夫一妻なので、体が大きく、多くの卵を産める個体がメスになり、次に大きな個体がオスになる。未熟な魚の生殖腺には卵細胞と精細胞の両方があり、いつの日かオスに、さらにメスに昇格するのを待っているというのです。サクラダイ、カクレクマノミのどちらにとっても、性転換はより多くの卵をかえすための戦略なんですね。

さて、性転換よりさらにショッキングだったのは、2階の「川と湖のサカナ」のコーナーにいるとても身近な魚でした。ギンブナ。かくもありふれた魚が、かくも珍しい生態の魚だったとはまったく知りませんでした。

ギンブナ

水槽前のプレートにはこう書かれていました。「ギンブナはオスがいなくても卵にコイやドジョウなどの精子がかかると受精し、ふ化した仔魚はすべてギンブナになるという繁殖習性を持っています。」なんとも、手品のような話ですよね。図書館で借りた「♂♀のはなし さかな」によると、ギンブナにはオスが非常に少なく、場所によってはほとんどいません。ギンブナのメスはギンブナのオスがいなくとも、メスだけで繁殖するというのです。他の魚の精子と受精するとはいっても、精子が卵内に侵入し、卵に細胞分裂を始めるための刺激を与えるだけで、卵核とは融合しないというのです。シングルマザーとして娘ばかりを産むということなんです。生まれた娘には「アンタも男なんかに頼っちゃだめよ」とでも言い含めるのでしょうか。男としては、少し複雑な気持ちにもなります。

   オス 下腹部が滑らかな曲線  クロウミウマ    メス下腹部が角張っている

水族館には、子育ての役割分担という観点からも考えさせられる魚がいろいろいました。入り口のすぐ近くの水槽にいるタツノオトシゴの一種、クロウミウマです。こちらのプレートには「クロウミウマを含むタツノオトシゴの仲間は、オスの腹部にある『育児のう』という袋で卵を守り、オスが稚魚を出産します」とありました。「オスが出産?どういうこと?」調べてみると、メスはオスのお腹にある「育児のう」に輸卵管を差し込んで卵を産みつけます。「魚類学の百科事典」によると、オスはその卵を、水温の高い熱帯域で9日、水温の低い高緯度域だと2か月間にわたって守り育てます。そして、しっぽのような部分を海藻に巻きつけて力んだり、岩などに腹を押し付けたりして、育児のうの中央部の亀裂から稚魚を産むということです。産みの苦しみをオスがするというのですから驚きです。卵を準備し、産みつけるのはメス、それをかえして出産するのはオス。フェアな役割分担ですよね。世の女性からは「タツノオトシコが羨ましい」というため息が聞こえてきそうです。

    クロホシイシモチ             ラビドクロミス・カエルレウス           

水族館ではこのほかにも、メスの産んだ卵をオスが口の中で守り育てふ化させるクロホシイシモチや、逆にメスが自ら口内保育をするラビドクロミス・カエルレウスも見ることができました。

魚の世界を見てみると、「性」の在り方、雌雄=男女の役割がとてもフレキシブルで、それぞれ種の生存戦略に応じて柔軟に選択していることがわかります。現代の浦島太郎が竜宮城に行ったら、そんな魚の世界に感銘を受けて帰ってくるのかもしれません。いやいや、竜宮城に行かなくても、サンピアザにいけば、いつでも実感できますよ。

【参考文献】

「魚類学の百科事典」2018年10月 一般社団法人日本魚類学会 丸善出版

「♂♀のはなし さかな」1991年8月 多紀保彦・奥谷喬司 技報堂出版

「したたかな魚たち」2017年3月 松浦啓一 角川新書

「日本大百科全書(ニッポニカ)」2001年4月 小学館 

おすすめ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA