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天空のホテル

岐阜県の坂祝町(さかほぎちょう)では毎年1月の成人式の後、新成人にヘリコプターで上空から町のようすを眺めてもらう「郷土記念飛行」を行っています。郷土愛を持ってもらおうというのが狙いです。確かに、飛行機の離着陸の時に、自分の住んでいる地域を上空から見ると、なんだか愛おしさを感じますよね。

でも、私たちは、わざわざヘリコプターに乗る必要はないんです。「ホテルエミシア札幌」があるからです。言わずと知れた厚別のランドマークです。

「ホテルエミシア札幌」が建ったのは1996年。「新さっぽろパレスホテル」として開業しました(1999年「シェラトンホテル札幌」に、2014年から「ホテルエミシア札幌」に)。厚別副都心開発基本計画に基づき、第1期のサンピアザ、第2期のDUO1・2などに続いて建てられました。

地上32階、地下2階で、高さは115m。1987年にできた「札幌センタービル」の105mを10m上回り、札幌市内では一番高いビルとなりました(さっぽろテレビ塔を除く)。厚別区内には、当時、北海道百年記念塔(1975年完成)、厚別清掃工場(1975~2002年稼働)の煙突と、高さがちょうど100mの建造物が二つありましたが、これらをも抜いたわけです。郊外のニュータウンに札幌で一番高いビルが忽然と姿を現したわけですから、大きな話題になりました。2003年に173mのJRタワーができて1位の座を譲り、その後札幌中心部には超高層ビルが次々と建っていきました。防災のために建物の高さを把握している札幌市消防局によりますと、「エミシア」の高さは、現在市内で8番目となっています。でも、札幌の超高層ビルの先駆けとして、また厚別のシンボルとして、その姿は今も輝きを放っています。

さて、それでは営業エリアの最上階、31階にある天空のレストラン「ハレアス」に上ってみましょう。お邪魔したのは先月25日、五月晴れの青空が広がっていました。

まさに360度の大パノラマです。JRタワーなど中心部のビル群が山脈だとしたら、このホテルは富士山のような孤立峰です。周りに高いビルがないので、遮るものの全くない孤立峰ならではの絶景が楽しめます。

私の家も、いつも通勤で歩いている原始林通も、病院やマンションなどが建設されている再開発の現場も、そして手をつないで歩道を歩く親子連れの姿も、手に取るように見えます。野幌森林公園の新緑の海に、旧開拓使札幌本庁舎の白いドームがぽっかり浮かんでいるのも見えます。遠くにクレーンが並んでいたのは、来年オープンする北海道ボールパークの現場でした。私たちが住んでいるこの地域が、いかに緑豊かで、空間的なゆとりのある、恵まれた環境にあるかを実感できました。と同時に、眼下の街並みが、そこにある営みが愛おしく感じられ、まさに「郷土記念飛行」の気分でした。

ホテルの方は「夕焼けは、紫、ピンク、オレンジと、さまざまな色のグラデーションを見せてくれます。夜景を眺めながらのお酒もオススメです。四季を通して札幌一の眺望だと思います」と話してくれました。食レポは苦手なので差し控えますが、ビュッフェスタイルのランチ(2200円)も大満足でした。ウイークデーでも大方の席が埋まる人気ぶりでしたので、事前の予約をオススメします。

2020年6月4日

写真提供:ホテルエミシア札幌

さて、「エミシア」と言えば、思い出すのが2020年6月4日のライトアップですよね。当時は新型コロナの緊急事態宣言に続く感染拡大防止期間中で、街中から灯りが消え、「エミシア」でも開店休業の状態が続いていました。そんな中、客室の明かりで浮かび上がらせてくれた「元気」の文字とスマイルのイラスト。心に沁みた、胸が熱くなったという方も多いのではないでしょうか。

ホテルがこのライトアップを行ったのは、地域の方から寄せられた1通のはがきがきっかけでした。

提供:ホテルエミシア札幌

切実で、切ないですよね。こういう期待を寄せられるところが、やはりランドマークなんですね。この地域に暮らしている人たちは、ヨーロッパの人たちが教会を、東京の人たちが東京タワーを仰ぎ見るような気持ちで、このホテルを日々見上げているんですね。そして、ホテルもそうした住民の願いに応えてくれたわけです。

考えてみれば、このホテルが開業したのは北海道拓殖銀行の経営破綻の前年。北海道全体がバブル崩壊の真っ暗闇に中にあった時です。大逆風の中での船出でした。私は当時まだ厚別区に住んではいませんでした。でも思うのです。地域の人たちは、札幌一高いホテルの出現に「元気&スマイル」と同じような希望の光を見ていたのかもしれないなと。まだインバウンドは戻らず、ホテルにとっては苦しい状況が続いています。でも、そんな中にあっても天に向かって屹立するその姿は、きょうも私たちを元気づけてくれています。

新札幌駅前の再開発エリアには、現在、大和ハウス工業が、地上30階、地下1階のマンション「プレミストタワー新さっぽろ」を建てています。高さは98m。来年7月には入居が始まる予定です。中心部の高層化の波が、郊外にも及ぼうとしているのかもしれません。

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