ヒストリー

この駅名「持ってるかも!」

 今回は前回に続き「JR新札幌駅」の「えっ、そうなの?!」第2弾。駅名をめぐる物語です。

 新札幌駅周辺の現在の地名は「厚別中央」ですが、駅ができたころの元々の地名は「下野幌」でした。隣の駅は「上野幌」ですから、その流れから言えば、「下野幌駅」もありですよね。近くに1894年(明治27)開業の歴史を誇る厚別駅があることからすれば、「新厚別駅」の可能性もあったと思います。

 では、どうして「新札幌駅」になったのか。この駅名の周辺を調べてみると、「えっ、そうなの?!」という事実が次々出てくるんです。

「新札幌駅」は既にあった

 新札幌から札幌に向かう途中、平和駅の手前、千歳線と函館線が並行して走るあたりから、左手に貨物列車がたくさん並んでいるのを目にしますよね。これが北海道の貨車輸送の拠点「札幌貨物ターミナル駅」です。その広さ55ha。札幌ドーム10個分です。昭和43年10月に貨物専用駅として開業しました。その時の駅名はなんと「新札幌駅」だったんです。「札幌駅の近くにある、貨物のためのもう一つの札幌駅」といった意味合いだったのではないでしょうか。

札幌貨物ターミナル駅

 ところが、今の新札幌駅が開業する2か月前の1973年(昭和48)7月16日になって「新札幌駅」から「札幌貨物ターミナル駅」に改称されたんです。えっ、それって駅名略奪? いえいえ、お互い納得づくで譲ってもらったんです。駅名変更を伝える北海道新聞にはこう書いています(1973年7月11日夕刊)。

「取扱量も増え、国鉄道総局は貨物駅としてのイメージアップをはかるため、駅名を改称することにした。」この時点では、貨物の新札幌駅の改称だけを伝えていて、名前を新駅に譲ることにはまったく触れていません。

 ここで、前回の記事でも登場した路線図をもう一度見てみましょう。

 前回書いたように、千歳線は旧・新札幌駅=札幌貨物ターミナル駅の手前で函館線と並行して走るルートに付け替えられました。これによって、旧・新札幌駅は、道内の二大幹線である函館線と千歳線の両方の貨物を1か所で取り扱うことのできる超便利な駅になったわけです。国鉄は、これを機に、この駅を名実ともに貨物輸送の拠点として増強しようとしていました。駅名の譲渡は、副都心にふさわしい駅名を模索していた新駅と、貨物輸送の拠点にふさわしい名前を求めていた旧・新札幌駅にとって、一石二鳥の妙案だったわけです。

「新札幌団地」も既にあった

 さらに驚いたことに、駅名ではなく、地域名としての「新札幌」もまったく別の場所に既に存在していました。

 私は厚別に関する資料を集めるため道立図書館に通っています。その日も北海道新聞の縮刷版をめくっていたのですが、とある記事を見て、思わず目が点になりました。今の新札幌駅が開業する2年前の「団地スポット」という囲み記事に「新札幌」の三文字を見つけたのです。本文には「石狩町花畔と樽川にまたがる新札幌団地」と書いてありました。「駅ができる前に新札幌があったの?石狩に?」

 調べてみると、確かに「新札幌団地」が当時の石狩町に実在していたことがわかりました。今は石狩市の「花川南」と呼ばれている地域です。ディベロッパーの内外緑地株式会社が1965年(昭和40)から造成を始め、分譲しました。その際宣伝パンフレットに「リトルさっぽろ新札幌団地」と銘打ったため、一帯が「新札幌団地」と呼ばれるようになったというのです。「新札幌」は売れるという読みがあったのだろうと思います。総面積100万坪(330ha)。当時道内では最大級の民間住宅団地でした。『石狩町誌』によると、1971年(昭和46)当時の新札幌団地の人口は6831人とあります。しかし、「新札幌団地」は、今の新札幌駅が開業した3年後の1976年(昭和51)に、石狩町が行った字名改正で「花川南」となり、その後はこの正式な住所で呼ばれるようになりました。石狩市広報課の話では、「昔は『新札幌団地』というバス停もありましたが、今では花川南が新札幌団地と呼ばれていたことを知らない人が多いと思います。」とのことでした。

 さて、話を新駅の命名に戻します。駅名決定の詳しい経緯については、JR北海道にも尋ねましたが、「資料が残っていない」ということで、確かなことはわかりませんでした。しかし、ここまで見てきたように、「新札幌」は、駅名としても、地域の通称としても既にあったのに、付けられた名前だということがわかりました。命名にかかわった関係者の間に「もう一つの新しい札幌を作るんだ」という熱い思いがあり、そうなったのかもしれません。

「新札幌」は出世する!  

 ここからはそれぞれの「新札幌」のその後です。

 「JR新札幌駅」は、道内でも利用者が4番目に多い駅になりました。駅を中心に街も発展し、大規模な再開発も続いています。住居表示上は今も「新札幌」という地名は存在しません。しかし、この地域の呼び名として「新札幌」はすっかり定着し、若者たちも親しみを込めて「シンサツ」と呼んでいます。

 一方、「新札幌」の駅名を譲った「札幌貨物ターミナル駅」も大きく発展しました。JR貨物北海道支社によりますと、2020年度の貨物取扱量は約242万7000t。東京貨物ターミナルに次いで、全国で2番目の一大拠点に成長しました。新札幌駅のホームで電車を待っていると、東京行きの20両もの長い貨物列車が通るのをよく見かけます。物流の大動脈が通っていることを実感する瞬間でもあります。

 「花川南地区」も札幌のベッドタウンとして発展を遂げました。石狩市の「いしかり砂丘の風資料館」が出している「石狩ファイル」の「新札幌団地」の項(No.0158-01 2016年8月31日発行)にはこう書かれています。

 「新札幌団地」の宅地開発は、それまでの農漁業主体の石狩町から、札幌広域都市圏 の大規模住宅団地機能を有する都市化への大きな転換点でした。(中略)平成28年(2016年)4月現 在、花川南地区は人口2万3983人で、石狩市最大の人口集積エリアです。

 こうしてみると、「新札幌」を名乗ったところは、どこも大きな飛躍を遂げています。「新札幌」は出世が約束された「持ってる名前」なのかもしれません。

【参考文献】

『北海道鉄道百年史 中巻』 国鉄北海道総局 昭和55年10月

『石狩町誌 中巻二』平成3年3月

『学研ムック 貨物列車ナビ 2015-2016』

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