こんなに大勢の若い人たちが新さっぽろにやって来たのを初めて見ました。しかも色鮮やかな出で立ちで。9月15日、新さっぽろの街は、色とりどりのコスプレ衣装に身を包んだ若者たちであふれました。札幌学院大学の学生たちが「新さっぽろコスプレフェスタ」を開催したからです。私にとってコスプレは全く未知の世界でしたが、新さっぽろの新しい可能性を目の当たりにできるかもしれないと思い、取材にお邪魔しました。午前8時過ぎ、札幌学院大学新さっぽろキャンパスには、若い人たちが続々と集まり始めていました。みんな衣装やウイッグなどが入ったスーツケースを携えているので、一見すると団体ツア客のようでもあります。行列は見る見るうちに100m以上に及び、学生たちがメガホンを持って、誘導・整理に当たっていました。「自分が思っていた以上のイベントだなあ」とすぐに気づかされました。午前10時前、受付が始まり、若者による若者のための刺激的なイベントが開幕しました。
「新さっぽろコスプレフェスタ」は、2021年に新さっぽろにキャンパスを開設した札幌学院大学の学生たちが街を盛り上げようと、実行委員会を作って去年初めて開きました。今回も含め道内各地でコスプレイベントを運営している一般社団法人・新文化経済振興機構によると、道内では札幌・大通の「サツコレ」や「とまこまいコスプレフェスタ」など、地域起こしのために開催されている大規模なコスプレイベントが6つあります。その中で新さっぽろは一番の新参者ですが、一つの大学の学生が中心になって開催している点が非常にユニークだといいます。第1回の去年は会場(コスプレ衣装で立ち入れるエリア)が札幌学院大学とサンピアザ、デュオ、水族館、アークシティホテルなどでしたが、ことしはBiViとカテプリ、札幌市青少年科学館も加わり、街挙げて盛り上げようという雰囲気が一段と高まりました。参加者もコスプレイヤーとカメラマン合わせて約1000人と、去年の1.4倍に増えました。
受付開始から1時間ほどすると、更衣室でアニメやゲームのキャラクターに変身した参加者たちが、大学内の教室や新さっぽろの街に次々と繰り出しました。私もいざ取材開始です。最初は還暦を過ぎた門外漢では相手にしてもらえないのではと不安でしたが、全くの杞憂でした。みんなとても気さくに話してくれるんです。それに「遊びですから」と言いながらも、かなり真剣に楽しんでいることがわかりました。まず変身が完璧なんです。衣装やウイッグ、それにメイク用品を買いそろえると5万円はかかると聞いてびっくり。衣装や小道具を自分で作っている人もいました。旭川や帯広など全道各地からやって来ている人がかなりいることにも驚きました。十勝の音更町を車で朝3時に発ったという人や、札幌のホテルに前泊したという人もいました。
さらに、撮影がまさに真剣なんです。撮影は、コスプレイヤーがアマチュアカメラマンに予めお願いしているケースや、当日会場で知り合ったカメラマンに撮ってもらうケースなどさまざまでしたが、本格的な機材を使っている人たちが目立ちました。照明の当て方やポーズ、表情にもトコトンこだわって撮っているんです。
参加者が真剣なら、迎えた学生たちも本気でした。実行委員会の学生27人が手分けして参加者からの問い合わせへの対応や会場の見回りに当たっていました。一番気を遣っていたのは、参加者と一般の人たちの間でトラブルが起きないようにすることです。学生たちは「盗撮禁止」などと書かれたプラカードを持って会場を巡回し、コスプレイヤーに無断で写真を撮っている人がいないか、コスプレイヤーが通行人に迷惑をかけたり、開催エリアでないところに入り込んだりしていないかなど、繰り返し見て回っていました。
午後1時にはサンピアザの光の広場にコスプレイヤー約50人が集まり、ステージショーも繰り広げられました。アニメやゲームの人気キャラクターの大集合とあって、子どもたちも大喜び。「鬼滅の刃」の主人公・竈門炭治郎やスターバックスのロゴマークの人魚などと握手をしたり、一緒に写真を撮ったりする姿が見られました。カラフルな衣装に身を包んだ人たちが、至る所を闊歩し、撮影を楽しんだり、食事をしたりしている光景は非日常的で、街中が遊園地になったような雰囲気でした。3人の子どもと買い物に来たという30代のお母さんは「たまたま来たんですが、本当によかったです」と話していました。60代の女性も「見ているだけで元気をもらえる感じがしする。どんどんやってほしい。やりたいことが思いっきりやれる街になってほしいね」と、エールを送っていました。
参加者たちにイベントへの感想を聞いてみると、「スタッフの人に何を聞いても、すぐに答えてくれる。対応がとても丁寧」「大学の教室や科学館とか、なかなか入れないようなところで撮影ができてよかった」「他のイベントだと、コスプレのまま入れる飲食店が少ないのに、ここは入れる店がいっぱいあって、街に歓迎されていると感じた」などという答えが返って来るではないですか。地元民としてはうれしいかぎりでした。
一方、初めて参加者を受け入れた青少年科学館では「館内はもちろん、地域全体の盛り上がりを感じました」、サンピアザなどを運営する札幌副都心開発公社の戸村洋(とむらひろし)さんも「コスプレイヤーとお客さんたちが触れ合っている姿があちこちで見られ、成功したと感じました」と話していて、協力したみなさんも確かな手応えを感じていました。
最後は実行委員長を務めた札幌学院大学4年の茅根光さん(かやねひかる 上の写真)に締めてもらいましょう。「去年より参加者も、撮影できる場所も増えて、より楽しんでもらえたんじゃないでしょうか。地域への貢献もできたと思います。来年はさらに参加者を増やしてほしいですね」
若い人たちのアイディアとパワー、今後も大いに期待できそうです。