チャレンジ ネイチャー

野幌の森を守る

「それではみなさん、けがのないように作業をしてください」

エゾハルゼミの大合唱が響き渡る中、下草刈りが始まりました。ここは、野幌森林公園の大沢口から1㎞余り入ったところにある、「のぽぽの森」と呼ばれる一角。市民グループ「野幌森クラブ」が森の再生に取り組んでいる現場です。6月21日、初夏の日差しの下、集まったのは私も含め60代から80代のメンバー7人。スズメバチがいるため、虫よけの黒いネットをかぶり、撃退用のスプレーも携帯します。草刈り機や柄の長い鎌を使って、幼木の周りの雑草やササを刈っていきます。取材のためにお邪魔した私も、鎌を借りて参加させてもらいました。

「のぽぽの森」は広さ2100平方メートル。ハルニレやヤチダモ、オニグルミなどの広葉樹を中心に、トドマツなどの針葉樹も含めて35種類、1100本あまりが植えられています。これらの樹木のほとんどは「野幌森クラブ」が森林公園内に自生している樹木から種を採取し、苗畑で育てた後、植えたものです(中には自然に生えてきた自生木もあります)。その1本1本について、生長具合を把握し、記録するため木の番号札が括り付けられています。

下草の中でも特に厄介なのはササです。森づくりはササとの戦いでもあります。ササはしぶとくしなるため、ある程度勢いをつけて刃先を動かさないと刈り取れません。しかし、勢いあまると、幼木や自分の足を切ってしまうおそれもあります。微妙な力加減が求められます。木の丈が低く、雑草に埋もれてしまっているところでは、腰を屈めて木と草をより分け、鎌の柄を短く持ちかえて、慎重に刈り取らなければなりません。思ったより神経を使う作業です。20分もすると玉の汗が滴り落ちました。どこを刈り取ったのか一目でわかるように、直線的に作業を進めたつもりでしたが、振り返ると刈り取った跡は不格好に蛇行していました。そんなときに「水分補給をしながらやってくださいよ」とのありがたい言葉。クラブのみなさんの手際いい仕事ぶりを眺めながらホッと一息です。樹高が3mを超え、下草に負けなくなれば、刈らなくてもよくなります。でも、「のぽぽの森」の木で3mを超えたのはまだ60%。あとの40%が独り立ちするまで、下草刈りは欠かせません。広報を担当している澤向豊(さわむかい・ゆたか)さんは(78)は「作業は本当に大変ですけど、木が年々伸びていくんでやりがいがあります。空気はいいし、ウグイスやカッコウの声も聞こえてきて、気持ちいいですよ」と話していました。

「野幌森クラブ」は、札幌や江別の有志が「森とそれを利用する人間との共生を持続させる」ことを掲げて2002年に結成しました。ことしでちょうど20年になります。現在の会員は13人。厚別区内からは夫婦で参加している方もいます。発足2年後の2004年9月、北海道は強い風台風に襲われました。大通公園の街路樹や北大のポプラ並木がバタバタ倒れたあの台風です。森林公園でも人工林を中心に77haで被害が出ました。

強風で根こそぎ倒れた樹木

実は野幌の森には風に弱いという弱点があります。地下の浅いところに固い粘土層があり、その上に載っている表土は厚さが30㎝から60㎝しかないんです。樹木は根を張ろうとしても粘土層に阻まれ、何とか横に根を伸ばして生き延びているんです。根が浅いため、強風に襲われると、写真のように根こそぎ倒れてしまうのです。

2004年は1954年の洞爺丸台風以来の大きな被害となりました。森林公園の8割は国有林ですが、管轄する北海道森林管理局は、翌年、市民団体などに参加を呼び掛けて「野幌森林再生プロジェクト」をスタートさせました。「100年前の原始性が感じられる自然林に再生する」のが目標です。「野幌森クラブ」もこれに応じ、石狩森林管理署と協定を結び、2100平方メートルの被害エリアの再生を担ってきたのです。活動は高く評価されていて、2018年には「森林レクレーション地域 美しの森づくり活動コンクール」で林野庁長官賞を受賞しています。現在、「野幌森クラブ」と同じように協定を結んで、森林再生に取り組んでいる団体は他にも5つあるということです。

春の観察会(2022.5.15)

クラブの森での活動は4月の越冬状況の調査から始まります。雪害やシカなどによる食害について調べます。5月には、一般市民を対象にした森の観察会を行います。ことし5月の観察会には私も参加しました。森の生態系の話をはじめ、山菜採りの人たちが森に分け入るため踏み分け道ができてしまっている現状などについてお話を伺い、とても有意義でした。6月から夏の間は下草刈り、9月・10月には樹木1本1本の高さを計測して生長具合を把握し、記録していきます。散策に訪れる人たちにもほとんど気づかれることのない、地道な活動です。会長の尾崎脩(おざき・おさむ)さん(80)は「私たちの経験を後の世代の人に伝えるために、活動の記録も作っています。みんなに野幌の森の自然環境について今以上に考えてもらえるようになればと思っています」と話していました。

取材してみて、野幌森林公園は何もしなくても「変わらずに在る」のではなく、多くの人たちが手をかけ守ってきた森だということを改めて知りました。私もこれから散策するときは、そんなことにも思いを致しながら歩いてみようと思います。

※写真の転載はお断りいたします。

【参考文献】

「野幌の森クラブ活動の記録 15周年記念誌」 野幌森クラブ 2018年10月

 ※道立図書館や札幌市中央図書館で読むことができます。

「アトラス野幌」石狩地域森林環境保全ふれあいセンター 平成18年3月

講演会「野幌の森林、北海道の森林」 石川幸男 平成6年12月

「フォーラム野幌森林公園の今」石狩地域森林環境保全ふれあいセンター・北海道博物館平成28年12月

「再発見!野幌森林公園」講演集録 江別市生涯学習推進協議会 平成20年3月

「野幌原始林物語」 江別市教育員会文化課 平成14年3月

「北海道百年記念野幌森林公園基本計画の研究」 加藤誠平 昭和42年2月 

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